国家独占資本主義 ① ― 第 1 次大戦・世界大恐慌・ブロック化・第 2 次大戦への道

覇権はイギリスからアメリカへ。1929 年世界大恐慌が金本位制の自動調節メカニズムを破壊し、
管理通貨制と国家独占資本主義が誕生する。ニューディール・ナチス・ブロック経済化を経て第 2 次大戦へ。

安藤光義 教授(東京大学農学部) 8 セクション構成 WWI 〜 WWII 前夜
SECTION 01

今回のポイント

アメリカは 現時点での生産力段階を代表する国。 第 1 次大戦後、覇権はイギリスからアメリカへ移行する。 世界大恐慌後に アメリカを典型として誕生したのが国家独占資本主義であった。

アメリカは現時点での生産力段階を代表する国。
第 1 次世界大戦後、覇権国はイギリスからアメリカへ移行する。
世界大恐慌後にアメリカを典型に誕生したのが国家独占資本主義であった。

1929 年:ニューヨーク株価大暴落 → 世界大恐慌。過剰生産と消費不足(最終的な解決は ニューディール世界大戦だったか)。

これまでの経済学の常識とされてきた、賃金切り下げ → 企業業績回復・輸出競争力回復 → 貿易黒字(決済「金」の蓄積)→ 金融緩和 → 設備投資 → 景気回復・雇用拡大・賃金上昇 という 金本位制の自動調節メカニズムが機能しなくなってしまう

賃金切り下げ・雇用縮小=失業をしばらくの間我慢すればやがて景気は回復してくるという経済政策は失敗し、 賃金切り下げ・雇用縮小はデフレ・スパイラルをもたらすだけだった。 → ケインズ経済学の登場

安藤先生からの補足 /G.チブラー説と石橋湛山「新平価復帰論」

第 1 次世界大戦後、世界最大の生産力を有するとともに最大の債権国家となった アメリカの世界経済運営の失敗であったとみる見解がある (G. チブラー『世界経済と世界政治:崩壊と再建 1922−1931』みすず書房)。

経済のファンダメンタルズを無視した 金本位制復帰(第 1 次世界大戦によって各国は 金本位制から離脱していた)に無理があったか。日本における金本位制復帰についての議論は 石橋湛山による「新平価復帰論」がある。

大不況によって各国は再び金本位制から離脱する。国家による管理通貨制へ移行 (国家が財政政策の自由度を獲得する)。第 2 次世界大戦後は金とドルとのリンケージ(交換)を前提とした アメリカ・ドルを基軸通貨とする国際金融システムが構築されることになる(IMF 体制)。 → 1971 年金ドル交換停止(ニクソン・ショック)で変動相場制に移行してしまう → 貿易取引金額を遥かに上回る資本取引が世界を覆う(金融 > 実体経済)。

SECTION 02

(5-1) 国独資以前 ― 多角的貿易決済機構と国際金本位制

19 世紀末から第 1 次大戦まで、イギリスを中心とした多角的貿易決済機構国際金本位制 が世界経済を回していた。

新興重化学工業ではイギリスは輸入超過

  • 新興重化学工業部門ではイギリスは輸入を増加 → ヨーロッパ・アメリカに対しては入超
  • ヨーロッパ・アメリカ以外に対するイギリスの地位は基本的に維持
  • 繊維製品は 世界貿易の 60% を維持(1913 年)
  • 一次産品諸国への工業製品輸出の維持拡大のため 自由貿易を堅持(イギリスは国内農業を犠牲にしてこの体制を維持する)

多角的貿易決済機構 ― インドが救う

ヨーロッパ・アメリカへのイギリスの貿易収支赤字を補填したのが インドとの貿易収支黒字。 欧米諸国が食料・原料輸入の見返りとして一次産品諸国へ輸出しなくても済む。 その結果、イギリスが欧米への支払い危機から免れる。

↓↓↓
円滑な資金循環を通して財・資本がイギリスに蓄積されていく
世界貿易の資金循環の要としての基軸通貨国イギリス

国際金本位制(19 世紀末)の自動調節メカニズム

各国が自国通貨を金とリンク(金保有量に応じた通貨発行)→ 為替の安定と貿易決済の円滑化 → 貿易の一層の拡大。世界金融の中心としてのロンドン金融市場(ポンド=基軸通貨・国際通貨)。 景気循環に伴う金の流出入を媒介にして各国の好況が世界的好況に連動。

⚙ 金本位制の自動調節メカニズム
賃金切り下げ・雇用縮小 企業業績回復・輸出競争力回復 貿易黒字(決済「金」の蓄積) 金融緩和 設備投資 景気回復・雇用拡大・賃金上昇 輸入増加・貿易赤字・「金」減少 金融引き締め 最初に戻る
SECTION 03

(5-2) 帝国主義政策の展開と列強の対立 ― 第 1 次大戦への道

帝国主義段階の列強は、外部への膨張 によって内部矛盾を解消しようとした。 その対立が 第 1 次世界大戦 に帰着する。

UKイギリス ― 2 つの路線の対立

「帝国膨張路線」:自由貿易堅持・シティの利益=貿易・金融の中心国の地位を維持。海外投資の増加によって貿易外収支の黒字を拡大。

「帝国関税同盟」:高率関税で工業を保護。帝国内は特恵低関税で自由貿易を促進。保護関税を財源として社会保障制度を拡充(→ 労働者の統合)。

結果は 前者(「帝国膨張路線」)の勝利の下での社会改革路線の受け入れ → 地主負担での社会政策と海軍拡張(人民予算)。対外的には海外投資型=植民地・農業国収奪型の性格を強める。 国内的には地主利害の犠牲のうえに 福祉国家化を推進する(国民統合型=民主型)。

FRフランス ― 植民地帝国の形成

利子収入をめざしたロシアへの資本輸出 ← フランス帝国主義の 高利貸的性格とフランス植民地の経済的限界。社会政策と政治的社会的民主化の推進(第三共和政)。国民統合型=民主型帝国主義

DEドイツ ― 閉鎖的・権威主義的な政治社会構造

ユンカー(土地貴族)支配の社会的権力構造。ブルジョワジーの「貴族化」。 家父長制的な労使関係 → 労働運動を抑圧。強度の資本蓄積は国内に激しい社会的摩擦と 抵抗を引き起こす。内的不満の対外転嫁 → ドイツ帝国主義の 攻撃的・侵略的性格


SECTION 04

(5-3) 第 1 次大戦と戦後体制 ― 覇権国としてのアメリカ

第 1 次大戦は アメリカを世界最大の生産力と債権国に 押し上げ、 覇権交代 をもたらした。

〜 1914
イギリス
ポンド基軸通貨・自由貿易
1914 〜 1929
アメリカ(覇権移行期)
世界の 40% の金準備・債権国化
1929 〜 1945
覇権の真空期
大恐慌・ブロック化・WWII
1945 〜 1971
アメリカ(IMF 体制)
ドル基軸通貨・金ドル交換

① WWI がもたらしたもの覇権の地殻変動

  • 敗戦国ドイツの弱体化・イギリス経済の停滞と国際的地位の一層の低下
  • アメリカの債権国化(世界の 4 割を占める金準備と貿易収支黒字)
  • アメリカが 国際的資金循環の中心国となる(ドルの基軸通貨化)

ヴェルサイユ体制とワシントン体制(帝国主義の世界体制の維持強化): ヴェルサイユ体制=賠償金その他によるドイツ制裁、敗戦国の植民地の委任統治を通じた戦勝国による分配・支配。 ワシントン体制=対日抑制と極東における新たな勢力均衡をめざす。列強の極東における既得権益の承認=民族運動に敵対。

② ケインズ『平和の経済的帰結』賠償金の構造的脆弱性

ケインズは 『平和の経済的帰結』で対独賠償請求を告発。 ドイツの客観的な支払い能力は 400 億マルクなのに対して、賠償金は 1,320 億マルクに ものぼった → ドイツ経済は賠償金に圧し潰されて破綻(ハイパーインフレーション)。

ドーズ案(1924 年)を契機にアメリカから資本流入が起こりドイツ経済は立ち直る。 この資本流入が途絶えれば賠償・債務支払いができないという 構造的脆弱性を抱える (アメリカの資金供給が不可欠)→ 世界経済は回復と成長に向かう(「相対的安定期」)。

③ 繁栄の 10 年アメリカ高度大衆消費社会の実現

アメリカ経済は 「繁栄の 10 年」を迎える。自動車・住宅・電機などの耐久消費財産業の成長。

  • 自動車産業:フォードシステム(ラインの流れ作業)、テーラーシステム(熟練の分割)
  • 割賦販売制度の普及
  • モータリゼーションとエネルギー多消費型の生活様式
  • 「高度大衆消費社会」の実現
SECTION 05

(5-4) 世界大恐慌の発生 ― 前史と連鎖反応

世界大恐慌の前史は 「農業問題の拡大」と「世界資金循環の破壊」。 この 2 つが連鎖して、1929 年の株価大暴落から世界規模の恐慌へ広がっていく。

前史 1戦時の生産刺激と戦後農業恐慌

第 1 次大戦は食料・原料生産の双方で 一次産品諸国に強い刺激 → 作付面積の拡大 (北米・オーストラリア・アルゼンチン・東欧:穀物生産の増加。東南アジア:ゴム。ブラジル:コーヒー。 キューバ・インドネシア・フィリピン:砂糖)。

戦争終結でヨーロッパ諸国の支払い手段は枯渇 → 対外農産物需要の減少 → 戦後農業恐慌の発生(1919〜1922 年)。アメリカで特に激しい農業恐慌となる (過剰生産と穀価下落)。1922 年フォードニー・マッカンバー関税=農業保護関税の実施。

前史 2農産物自給化政策と国際分業の崩壊

ヨーロッパ諸国は農業保護関税による農産物自給化政策を推進(戦争の経験に基づく食料戦略・農民保護政策) → 国際農工分業体制は壊れていく。一次産品諸国は生産調整ができず、 一層の生産拡大に突き進んでいく。

アメリカの経済構造・貿易構造が持つ問題点:広い国内市場と低い貿易依存度 → 農業・工業とも輸出超過 → アメリカは継続的な資本輸出によってドルを散布し続けなくてはならない。 戦後の新多角貿易の安定性・継続性はアメリカの資本輸出が握っていた ← 債務国の債務が累積するだけで不均衡の問題は未解決のまま激化。 孤立主義的に自己の利益を追求するアメリカ=中心国として世界の円滑な資本循環をリードする 責任感に欠ける。

⚠ 世界大恐慌の連鎖反応
1
一次産品諸国の貿易収支悪化 → 資本引き上げ(1928 年) → アメリカ証券投資(バブル経済)
2
世界大恐慌(1929 年) ― 株価下落をきっかけとする恐慌
3
アメリカの資本輸出の停滞と輸入の減少 → 農業諸国とドイツが甚大な打撃
4
世界農業恐慌の同時的発生 + 再建国際金本位制の解体
5
アメリカ 「ホーレイ・スムート関税法」 → ヨーロッパ諸国は農業保護を一層強化 → 「近隣窮乏化政策」による農工分業体制の崩壊 → 世界貿易の急激な縮小(「ブロック経済化」
6
農業諸国はダンピング輸出と生産増大 → 農業不況の一層の深化・金本位制離脱。ヨーロッパ信用恐慌(オーストリアの信用恐慌)→ イギリス金本位制離脱。均衡財政主義に基づくデフレ政策 → 縮小均衡を達成して景気回復 → 不況の慢性化
金本位制離脱と 管理通貨制導入の下(国家独占資本主義の下)での 赤字財政による有効需要創出政策の展開へと進む。
ニューディール型:景気回復は不十分。市場経済原理と市民的自由の尊重 (← ニューディール政策違憲判決)。社会改革と労働者宥和策の併施。
ナチス型:不況を速やかに克服。市場統制的性格と反労働者的性格。 大規模な財政赤字と軍需生産の拡大の結合
SECTION 06

国家独占資本主義の登場 ― 3 つの型

管理通貨制への移行で 国家が財政自由度を獲得。 アメリカ=ニューディール、ドイツ=ナチス、日本=高橋財政 ― 3 つの異なる「国家独占資本主義」の型 が並行して生まれる。

管理通貨制への移行 → 財政自由度の獲得と体制維持のための福祉国家
国家による通貨発行管理 = 財政自由度の増大(財政赤字問題も発生)。
本格的な管理通貨制の導入・実施が国家独占資本主義移行の指標
USA

ニューディール(F. ルーズベルト)

処方箋としての 有効需要創出政策(スペンディング・ポリシー)。理論的支柱としての ケインズ経済学。経済政策への強力な国家干渉。雇用創出のための経済政策、 失業対策・公共事業(TVA)。 労働者の権利強化・労働組合設立促進農産物価格支持制度による農業保護農業調整法 AAA)。 価格政策はアメリカから。

Germany

ナチス型 ― 軍需と財政赤字

市場統制的性格と反労働者的性格。大規模な財政赤字と軍需生産の拡大の結合。 没落する中間層を政治的背景に ナチズムが台頭。 イタリアでは ファシズムが台頭 → 日独伊三国同盟を締結 → 第 2 次世界大戦へ。

Japan

高橋財政(高橋是清)

救農土木事業の実施(農村の失業対策事業)。 国債の日銀引受 → 軍需を抑制することができなくなる(二・二六事件)。 貧困に喘ぐ農民層を政治的背景として全体主義・軍国主義へ

UK / France

福祉国家への移行

ソヴィエト社会主義(大恐慌の影響を全く受けない・失業問題が生じなかった)への対抗としての 福祉国家へ(課税強化・所得再分配)。トマ・ピケティ『21 世紀の資本』みすず書房を参照。 第 2 次世界大戦および欧州大陸荒廃による食糧不足を背景にアメリカ農業は生産力をさらに高めていく → その後の農産物過剰問題の引き金に。

安藤先生からの補足 /日本:貧困農民が全体主義の温床に

日本の高橋財政は 救農土木事業で農村の失業対策を行ったが、 財源として 国債の日銀引受を行ったために、後に軍需財政を抑制することができなくなる。 この構造が 二・二六事件(1936)を生み、貧困に喘ぐ農民層を政治的背景として 全体主義・軍国主義へと突き進んでいく。

ドイツ(ナチズム)も日本(軍国主義)も、救済されなかった農民・中間層を政治的基盤とした 全体主義であった点で共通する。世界大恐慌は経済の危機にとどまらず、政治体制そのものを 変えてしまったのである。

SECTION 07

(5-5) 世界経済のブロック化 ― 第 2 次大戦への道

世界経済は 3 つのブロック(スターリング/ドイツ広域経済圏/米州互恵)に 分断される。これが 第 2 次世界大戦の経済的前提となる。

UK

スターリング・ブロック

オタワ会議(1932 年)によるスターリングブロックの形成。 帝国内貿易の拡大と為替の自由取引の確保 → 世界貿易縮小と多角決済ルート閉止

Germany

ドイツ広域経済圏(アウタルキー)

外国為替の中央銀行への集中:外貨は対外支払いに充てられる → 資本流出の制限から 貿易統制のための手段 (双務清算協定の手段)に変質。金や自由為替を使わない貿易決済関係(東南欧、南米)。 東南欧はドイツへの食料・原料供給基地、工業製品市場として従属。 マルク残高がドイツの為替管理によって封鎖:国際決済手段として使えない。 二国間の輸出入の均衡が原則=出超国はドイツ工業品を輸入するしかない。 ← 相手国と他の工業国との関係を切断するもの。 経済的自立を奪ってドイツの農業地方と化すことを目的としている自給自足経済圏(アウタルキー)を目指す政策。

USA

米州互恵通商(門戸開放)

互恵通商協定法(1934 年)=自由多角貿易主義への転換。 貿易制限を軽減する通商協定を締結していく=「門戸開放」路線。 ← ヨーロッパ諸国の中南米に対する輸出攻勢とブロック化傾向への対抗。 中南米をアメリカの輸出市場として確保する差別主義とブロック化傾向。 アメリカの通商を差別する国に対しては 無条件最恵国待遇を取り消す → 通商差別を取り除くことなく市場分割競争を激化させた。

3 つのブロックが互いに排他的に固まることで、世界貿易は縮小し、各国は経済成長の出口を失う。 その出口を 「戦争」に求めたのが日独伊三国同盟の選択であった。
SECTION 08

まとめ ― 国家独占資本主義の歴史的位置

国家独占資本主義は 「市場の失敗」を国家が補う体制 として誕生し、 第 2 次大戦と戦後 IMF 体制を経て、現代まで形を変えながら続いている。

国独資以前(〜 1929)

金本位制 + 自由貿易 + 夜警国家

市場の自動調節メカニズム

イギリスを中心とする多角的貿易決済

植民地獲得競争 → 第 1 次大戦

国家独占資本主義(1933 〜)

管理通貨制 + ブロック経済 + 強い国家

有効需要創出政策(ケインズ)

農産物価格支持・労働者宥和・福祉国家化

3 ブロック対立 → 第 2 次大戦 → IMF 体制

安藤先生からのまとめ /現代に続く問い

今回の授業では、世界秩序の中心に位置するアメリカの役割というのが 1 つのテーマになるかと思います。 自分に都合の悪いルール(WTO はそう見えているのでしょう)は力任せに変えようとする ジャイアン(笑)にどう箍をはめるか、あるいはリーダーとしての自覚をもってもらえるかどうかという 問題は現在も続いています。

新大陸 vs 旧大陸という構図も現在に継承されています。 「人は変わらない」「人は変わる」のどちらに皆さんは軍配をあげますか。

「金は天下の回りもの」という格言をケインズが聞いたらどのように反応したでしょうか。 金本位制で委縮した経済を活性化する処方箋ですが、政府の財政赤字が気になります。 コロナウイルス対策以降の大盤振る舞いの結果として残る国の負債は結局どうなるのでしょう。 若い皆さんが引き継がれるのでしょうか(泣)。インフレーションで帳消しでしょうか。

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第 6 回:国家独占資本主義 ② 戦後
IMF・GATT 体制と農業保護政策。資本主義の政治的・経済的変容(ハーヴェイ)・新自由主義への転換
準備中