2025 年農業センサスは、農業経営体・経営耕地面積・基幹的農業従事者数の三大指標すべてが過去最大の減少率を更新。
「縮小再編」は 「壊体」局面 に入った ― 西日本は農業解体的な状況、若手支援こそ最短経路。
2026 年 3 月末、農林水産省は 2025 年センサスの確定値を公表 ― 「規模拡大が進展」として「戦果」を強調。しかし数字を丁寧に読むと、まったく別の姿が見えてくる。
5 年に 1 度のセンサスは 農業の「健康診断」の結果を正確に読み解く必要がある。 センサスを用いて 2005 年から 2025 年の 20 年間の日本農業の変化を素描することで、この課題にアプローチする。
2025 年センサスは 2025 年 2 月 1 日時点の回答である = 2024 年の状況についての回答となるため、 経営耕地面積などの農業構造に関する数値については基本的に 米価高騰(「令和の米騒動」)の影響は受けていないと考えられる。
農業経営体数・経営耕地面積・基幹的農業従事者数 ― 三大指標すべてが過去最大の減少率を更新。 これが本講演の出発点である。
| 区分 | 2005 | 2010 | 2015 | 2020 | 2025 | 05-10 | 10-15 | 15-20 | 20-25 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 全国 | 2,009 | 1,679 | 1,377 | 1,076 | 836 | 16.4% | 18.0% | 21.9% | 22.3% |
| 北海道 | 55 | 47 | 41 | 35 | 29 | 14.8% | 12.5% | 14.2% | 16.9% |
| 都府県 | 1,955 | 1,633 | 1,337 | 1,041 | 807 | 16.5% | 18.1% | 22.1% | 22.5% |
出典:各年農林業センサスより筆者作成。北海道はこれまでで最大の減少率を記録。都府県は減少率の増加は鈍化したが、やはり最大の減少率となった。
| 区分 | 2005 | 2010 | 2015 | 2020 | 2025 | 05-10 | 10-15 | 15-20 | 20-25 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 全国 | 3,693 | 3,632 | 3,451 | 3,233 | 2,999 | 1.7% | 5.0% | 6.3% | 7.2% |
| 北海道 | 1,072 | 1,068 | 1,050 | 1,028 | 961 | 0.4% | 1.7% | 2.1% | 6.6% |
| 都府県 | 2,621 | 2,563 | 2,401 | 2,204 | 2,038 | 2.2% | 6.3% | 8.2% | 7.5% |
北海道はこれまでで最大の減少率を記録し、100 万 ha を割り込む。6.6% は都府県と同レベルの減少率。都府県は 200 万 ha 割れ寸前。
| 区分 | 2005 | 2010 | 2015 | 2020 | 2025 | 20-25 減少率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 男・全国 | 1,214 | 1,148 | 1,005 | 822 | 659 | 19.8% |
| 男・北海道 | 62 | 57 | 50 | 40 | 34 | 15.9% |
| 男・都府県 | 1,152 | 1,092 | 954 | 782 | 626 | 19.9% |
| 女・全国 | 1,027 | 903 | 749 | 541 | 377 | 30.3% |
| 女・北海道 | 53 | 45 | 39 | 30 | 24 | 21.0% |
| 女・都府県 | 973 | 859 | 710 | 511 | 353 | 30.9% |
注:2005・2010・2015 年は販売農家、2020・2025 年は個人経営体なので連続した数字ではない。2020 年から 2025 年にかけての減少率は鈍化したが、男女とも全国計の減少率は過去最高を更新【男 2 割減、女 3 割減】。
農地は 2 割減少。20ha 以上層・30ha 以上層も 経営耕地の増加面積は前回より大きく減少。 = 分母を減らしながらの集積率の増加。
2005 年 3,693 千 ha → 2025 年 2,999 千 ha = 農地は 2 割の減少(2005 年 = 100 → 2025 年 = 81)
5ha 以上の集積率は 43% → 71% へ大きく上昇したが、これは 分母の減少による「見かけの集積」を含む。
北海道:農地は 1 割減少。20ha 以上層・30ha 以上層の農地面積は 減少に転じる。
都府県:農地は 2 割以上減少。20ha 以上層の集積率は 31%、 30ha 以上層は 23% ― 都府県でようやく集積が進んできた。
下層が放出した農地のうち、20ha 以上層が引き継いだのは僅か 20%(2020-25 年)。 残り 80% は どこへも引き継がれず消滅している。
| 年 | ① 今回 20ha 未満層 の経営耕地面積 | ② 前回 20ha 未満層 の経営耕地面積 | ③ = ② − ① 減少面積 | ④ 20ha 以上層の 増加経営耕地面積 | ④ / ③ カバー率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2010 | 2,444 | 2,729 | 285 | 224 | 78% |
| 2015 | 2,158 | 2,444 | 285 | 105 | 37% |
| 2020 | 1,799 | 2,158 | 359 | 141 | 39% |
| 2025 | 1,508 | 1,799 | 291 | 58 | 20% |
20ha 未満層が放出した農地をどれだけ 20ha 以上層に引き継がれているかをみると、2020 年から 2025 年にかけては僅か 20% でしかない。 2020 年から 2025 年にかけての 20ha 以上層の経営耕地面積の増加は 5 万 8 千 ha でしかない。
| 区分 | 年 | ① 今回 20ha 未満 | ② 前回 20ha 未満 | ③ 減少 | ④ 増加 | ④/③ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 2010 | 209 | 259 | 51 | 47 | 92% |
| 2015 | 172 | 209 | 35 | 18 | 50% | |
| 2020 | 136 | 172 | 37 | 14 | 40% | |
| 2025 | 102 | 136 | 34 | −34 | − | |
| 都府県 | 2010 | 2,236 | 2,470 | 234 | 177 | 75% |
| 2015 | 1,986 | 2,236 | 250 | 87 | 35% | |
| 2020 | 1,663 | 1,986 | 323 | 126 | 39% | |
| 2025 | 1,406 | 1,663 | 257 | 91 | 35% |
2025 年の北海道の 20ha 以上層の経営耕地面積は減少しており、カバー率という考え方は適用することができないため「−」とした。 都府県で 20ha 未満層が放出した農地をどれだけ 20ha 以上層が引き継いでいるかをみると 4 割に達しない状況が続く。
愛知 93%(9 割)でトップ vs 九州・沖縄 4% ― 地域差は極端に拡大。西日本は「農業解体的な状況」。
都府県平均 35%。東日本でも 5 割を超えているのは 北陸だけ。 西日本は農地の受け手不在(中国・四国・九州・沖縄は 20% 以下)。
農地を減らさずに農地集積を実現できているのは 愛知県だけ。 何とか期待ができるのはカバー率が 6 割を超える福島県くらいまで。 東日本を代表する農業県といっても 4 割水準。 西日本では 滋賀県、大阪府、宮崎県、兵庫県が都府県平均以上となっている (大阪府と兵庫県で何が起きているのか)。
下位の状況は深刻:熊本県は 20ha 以上層の経営耕地が逆に 2,462ha 減少、 徳島 0%、埼玉・大分 1%、長崎 3%、沖縄 4%、東京・佐賀 5% ― 集落営農で農地は守れても、出てきた農地を引き受けることまではできない。 西日本の諸県は 農業解体的な状況。
農業経営体減少率・経営耕地面積減少率とも 直近ほど高い水準。 西日本ほど厳しく、災害(福島・石川)が拍車をかけた。
第 1 図 農業経営体数減少率の推移:都府県 47 県+北海道について、2005-10/10-15/15-20/20-25 の 4 本の折れ線。 「最近の折れ線ほど上になっている」 ― 全国一律で減少が加速。
第 2 図 経営耕地面積減少率の推移(農業経営体): 「全体として東日本よりも西日本の方が折れ線が上に位置している」。
第 3 図 5ha 以上層への農地集積率の推移(構造再編の進展度):
第 4 図 20ha 以上層への農地集積率の推移:富山 7 割/福井 6 割/岐阜・愛知・滋賀 5 割/ 岩手・石川・三重・佐賀 5 割へ/宮城・秋田 4 割/青森・茨城・新潟・島根・山口(低水準)。
かつて成立していた 「経営体減少 → 借入耕地増加 → 集積率上昇」 という連鎖が 3 つの散布図すべてで崩壊している。
2005-2010 年の傾向は消失し、プロットの分布は 右上へとシフトしていく = 農業経営体の減少により経営耕地面積が減少する傾向を強めていく。
かつては「農業経営体が減少しても経営耕地面積は減らなかった」(誰かが引き受けていた)が、 現在は 「経営体が減れば農地そのものが消える」関係になりつつある。
「農業経営体減少率が高まると借入耕地面積の増加率が高まる」という 2005-2010 年の傾向は消失し、 プロットの分布は フラットになる = 農業経営体が減少しても借入耕地面積は増加しなくなっていく。
「借入耕地面積の増加率が高くなると経営耕地面積の減少率は減少する」2005-2010 年の関係は消失し、 プロットの分布は 縦に立つ形になる = 借入耕地面積の増加率が低下し、経営耕地面積減少率が高まる。
65 歳以上が男性 69%/女性 71%、64 歳以下は 3 割 ― 高齢化はもはや限界に近づいている。
都府県:団塊の世代のピークが消えながら山の高さが低くなっていく。 10 年前までは 定年帰農の動きがあったが、近年は確認できなくなってきた ← 定年延長の影響・家規範の弱まり。
北海道:団塊の世代のピークが消えて山が急速に低くなる。 定年帰農の動きはない(家産維持の農業ではない)。 40 代の人数から減っていくだけ → 40 代前半までにどれだけ基幹的農業従事者を確保できるかが勝負。
従来、都府県では 「定年退職後に農業に戻る」という直系重世代家族のパターンがあり、 高齢者でも農業労働力として機能していた。しかし 定年延長と家規範の弱まりにより、 この帰農パターンが急速に失われている。
結果、都府県も北海道と同じく「40 代前半までに基幹的従事者を確保できるかが勝負」という 構造になりつつある。これは 高齢者を頼りにする農業の終焉を意味する。
日本農業は 「縮小再編」から「壊体」局面 へ。 従来の 構造再編路線は時代遅れ、若手への手厚い支援 こそが最短経路。
農業経営体は減少しても農地は受け手に集積される時代(2005-2010)
下層が放出した農地の 20% しか引き継がれない(2020-2025)
特に西日本各県で農業構造そのものが解体に向かう局面
日本農政は長らく 「農地流動化 → 担い手への集積 → 構造改革」という単線型の路線を維持してきた。 しかし 2025 年センサスは、この路線が 「受け手不在のため機能しなくなった」ことを数値で示している。
新基本法(1999)の 「8 割目標」は、農地を受け取る側が十分に存在することを前提としていた。 2025 年の現実は、その前提が崩壊したことを意味する。 政策は 「農地を出す側」ではなく「農地を受ける側=若手」を支援する方向への根本的転換を迫られている。
本講演は、第 11 回(第 2 部のまとめ)で扱った「集落営農・日本型直接支払」という戦後農政の到達点が、 いま 「壊体」局面で次の枠組みを必要としていることを、データで示すものである。