食料・農業・農村基本法が内包する 4 つの理念の矛盾を解剖する。
集落営農による三者止揚の限界から 農村 RMO(2021) へ。
2020 年センサスが示す細小再編と後継者問題の構造。
食料・農業・農村基本法(1999)は 4 つの政策理念 を同時に掲げた。 しかし「農業の持続的な発展」を中心に据えると、残る三者の間に 解消できない矛盾と緊張関係が生じる。
農業所得増加のために稲作からの脱却を推進すると、水田が有する洪水調節・生物多様性などの公益的機能が失われる。水田地帯の農業所得と農地面積には正の相関がある一方、稲作特化係数が小さいほど農業産出額を増やす方向に作用している(守山 1997)。
農業以外の産業振興による雇用機会の創出(Rural Economy = 地域経済の多様化)は農業からの脱却を促し、農地兼・耕作放棄 → 多面的機能の喪失につながる。中山間地域では農業で生計を立てることと多面的機能の維持が両立しない。
農政システムに異なる価値観・さらに潜在的トレードオフ関係を内包させることになった(荘林 2011)。新基本法の政策理念と政策目的の多元化が、集落営農という「調整装置」を必要とした根本的な理由である。
三者の矛盾・緊張関係を止揚する実質的な農村政策として、 現場で機能してきたのが集落営農だった。 しかし法人化が進んでも後継者は確保できず、 集落営農は新たなステージに入ろうとしている。
農業経営基盤強化促進法(1993)は個別経営体育成路線(特定農業法人制度の創設/対象は担い手経営体)として設計された。一方、中山間地域の現場では「集落ぐるみ型」の地域を守るための危機対応として集落営農が生まれた。島根・広島・滋賀・富山などで中山間地域等直接支払制度(2000)による集落協定を基盤に設立が進む。
島根県は古くから集落単位で農業振興に取り組んできた歴史があり、集落営農の先進地として全国的な存在感がある。集落営農の設立・法人化は進んだが、広域連携組織を設立し、農業作業は縮んでいく(攻め)。日常的な管理は集落営農でできても後継者は確保できず、農業作業は委託でき得ても地域管理は集落営農では不十分という状況が続く。→ 農村 RMO へ政策化
個人農業者の高齢化・担い手不足が深刻な地域で集落ぐるみの法人設立が加速。農村の衰退による政策の換骨奪胎が起きる ―「農業専従者」なき法人化、構造政策の地域政策化。
集落営農の法人化が推進されたが、法人化されても後継者は確保できず、厳しい状況にある。「技術と普及」2022 年 4 月号で「晩後期の集落営農」特集が組まれるなど「このままでは難しい」という認識が広がり、集落営農は新たなステージに入っている。
大規模経営への農地集積は加速しているが、都府県では 経営耕地面積そのものが減少している。 北海道と都府県の分断、そして都府県内での地域格差拡大が 2020 年センサスから読み取れる。
| 地域 | 年 | 5ha 以上 | 10ha 以上 | 20ha 以上 | 30ha 以上 | 経営耕地面積(指数) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 2005 | 97% | 91% | 76% | 62% | 100 |
| 2010 | 98% | 93% | 81% | 67% | 100 | |
| 2015 | 98% | 95% | 84% | 71% | 98 | |
| 2020 | 99% | 96% | 87% | 75% | 96 | |
| 都府県 | 2005 | 21% | 11% | 6% | 4% | 100 |
| 2010 | 32% +11 | 20% +9 | 13% | 7% | 98 | |
| 2015 | 40% +8 | 27% | 18% | 12% | 96 | |
| 2020 | 50% +10 | 36% | 25% | 18% | 84 |
課題の核心は後継者が不在で出てくる農地を残った経営がどうやって引き受けていくかにある。 2020 年センサスでは農業経営体の 71% が後継者を確保できていない。
経営耕地の面的な集約化(分散した農地をまとめてブロック化)で 1 人あたり面積を増やす。茨城県の事例では 1 人あたり水田 25ha を担っている大規模経営体が報告されている(澤ほか 2022)。
大規模経営の後継者がいない場合は第三者継承(M&A 的手法)。2021 年の日本農業経営学会シンポジウムでは経営継承の方策の一つとして M&A が取り上げられ議論された。
| 経営主年齢 | 青色申告 | データ活用 | 有機農業 | 農業生産関連事業 | 販売金額 1,000 万円以上 |
|---|---|---|---|---|---|
| 39 歳未満 | 69.3% | 59.5% | 9.2% | 13.1% | 42.2% |
| 40〜64 歳 | 44.3% | 25.5% | 6.5% | 9.0% | 19.5% |
| 65〜74 歳 | 32.8% | 13.0% | 6.9% | 8.0% | 9.2% |
| 75〜84 歳 | 25.8% | 8.1% | 6.1% | 7.3% | 3.7% |
| 85 歳以上 | 23.9% | 8.2% | 4.9% | 6.9% | 2.1% |
集落営農が②③④をカバーしきれなくなる中、2021 年の新しい農村政策は 農村 RMO(農村型地域運営組織) という新たな仕組みを打ち出した。 農村の振興の領域を「しごと・くらし・活力」全体へと拡大する。
集落営農の発展ならば②③④をカバーするのは自然な流れだが、地域の生活支援組織が③(農業の持続的な発展)まで担うのは難しいように思う。
集落活動の活性化と農村地域資源の保全の両方の実現を目指したが、高齢化と人口減少によって集落が機能不全に陥らざるを得ない現実がある。→「農村に暮らす人たちに求められている農村政策とは何か」という根本問いが浮上する。
農村政策は 農地保全から農村社会へのシフトが問われている。 同時に「みどりの食料システム戦略」の登場と食料政策の確立が、 ③(農業の持続的な発展)と④(農村の振興)の関係を 一層複雑にする。
「みどりの食料システム戦略」の登場によって③(農業の持続的な発展)が変化すると、③と④を繋いでいた集落と集落営農がもたなくなる中で事態は一層複雑になってくる。農村の振興に力点を置いた方向に思い切って舵を切る必要があるのではないか(②<④)。
米政策(生産調整)は農村社会に影響を与え続けてきた。集落改革対応としての「集落ビジョン」、品目横断的経営安定対策としての集落営農設立 ―― 現場が政策を受け止めるために集落の協議・結束力が重要な役割を果たしてきた。生産調整の廃止は集落の話し合いの必要性をなくし、コロナ禍が追い打ちをかける。